人の感情をロボットの腕の動きで表現:国内外初の取り組み
人の感情をロボットの腕の動きで表現:国内外初の取り組み
(ケアされる人を癒す介護ロボットを目指して)
名誉教授 白石昌武
工学部助教 住谷秀保
以前福祉センター及び介護センターの患者を対象に、“将来介護ロボットの使用についてどう思うか”の聞き取り調査を行った。それによると、“ロボットもいいけど、やはり人の手がいい”という回答が圧倒的であった。ヒューマノイドロボットが積極的に研究かつ導入されている理由の一つがここにある。音楽の世界に目を向けると、指揮するロボットが国内外で開発されている。指揮者の動きを機械的に模倣させることは難しいことではない。しかし小澤征爾やヘルベルトカラヤンに代表される真の指揮者は、演奏する音楽の情景等を頭や心に描写し、感情を込めて指揮しているのである。これからの介護用ロボットは単に機械的に模倣した動きではなく、ケアされる人の感情をも汲み取り、感情コミュニケーション(Emotion Communication)に立脚した動作が求められる。
脳波は脳の活動が頭皮上の電位変化として表れる微弱な信号である。下図のように被験者の頭部に脳波検出用キャップを装着し、まず心癒されるモーツァルトの静かな音楽をヘッドホーンを通して聴かせる。被験者は次第に心地よさを感じ、リラックスすると共に脳波の中のα波が増加する。そのα波を周波数解析すると1/fゆらぎとなる。この場合のロボットの腕の動きは、新鮮さを含む変動を伴いながら何か期待感を抱かせる動作となり、非常に滑らかかつゆったりとした上下の動きで視覚的に癒される。次に、激しいデイスコ調のような音楽(白色ノイズに近い)を聴かせると、被験者は明らかに不快感、イライラ感さらには怒りに似たような表情を示す。α波の出方は極めて少なく、代わってβ派が主流を占めるようになる。その時のロボットマニピュレータは振動を伴うランダムな動きとなって激しい上下運動を繰り返す。つまり視覚的に唐突感や不安感を与える不快な動きとなる。
このように人の感情状態が、それに直接対応する脳波を介しロボットマニピュレータの動きとして表現でき、介護用ロボットへの応用が可能となる。
(毎日新聞5月11日、茨城新聞4月21日、産経新聞5月11日)

