戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「革新的燃焼技術」研究におけるクラスター大学として採択されました
科学技術イノベーション総合戦略*1及び日本再興戦略*2において、総合科学技術会議を司令塔とし科学技術イノベーションを実現するため、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を創設することが決定されました。SIPは、府省や分野の枠を超えて基礎基盤研究から一貫して実用化・事業化を見据え、制度改革や特区制度の活用等も視野に入れ推進していくものであり、日本経済の再生を実現するための取り組みです。
そして、その中の課題の一つである「革新的燃焼技術」研究におけるクラスター大学として、茨城大学が採択されました。
「革新的燃焼技術」は、社会的に不可欠かつ経済・産業競争力にとって重要な10課題の内の一つであり、『最大熱効率50%のエンジン技術を開発し、省エネ・CO2削減に寄与する』ことを目標としています。
本研究では、これまで行ってきた燃焼や燃料に関わる研究成果を基に、高効率エンジン開発に欠かせない「ガソリンの着火・燃焼特性を把握し、これを表現する素反応モデルを開発すること」と「排気熱を利用しガソリンをノッキングを起こしにくい燃料へ改質すること」の二つの課題に、工学部機械工学科金野満教授、田中光太郎准教授が取り組みます。
*1 平成25年6月7日閣議決定
*2 平成25年6月14日閣議決定
【本研究の背景】
自動車産業は日本の基幹産業であり、日本経済の再生を果たす上で自動車産業が果たす役割は非常に大きいと云えます。日本の自動車用エンジン技術は、長い間世界のトップにありましたが、ここ数年、世界の追い上げが急で、とくにドイツを中心とする欧州勢に対しては技術的優位性を失いつつあります。エンジン技術は自動車産業におけるキーテクノロジーであり、より熱効率が高く、CO2排出量の少ないエンジンを開発することが世界の自動車会社との世界的競争に勝ち抜くための大きなアドバンテージとなります。
現在の乗用車用ガソリンエンジンの最高熱効率は約37%と言われています。これを50%まで引き上げるには、従来エンジンの水準をはるかに超える高過給・高圧縮比・高希薄燃焼を実現する技術が求められます。「革新的燃焼技術」では、エンジン技術や関連する科学分野において優れた実績を持つ国内の大学が結集し、それぞれの得意分野の知見・能力を活かして、オールジャパンで『熱効率50%のエンジン』という革新的な目標に向かってチャレンジします。
【取り組み内容】
(1)ガソリンの着火・燃焼特性の把握と素反応モデルの開発・簡略化
熱力学によれば、エンジンの熱効率は圧縮比が高いほど改善されることがわかっていますが、ノックと呼ばれる異常燃焼が高圧縮比化の障害となっています。ノックの抑制方法を開発するには、燃料であるガソリンの着火特性を把握し、これをモデル化することが必要ですが、熱効率50%を狙ったエンジンで想定される高圧、高希釈条件における実用ガソリンの着火特性のデータは世界的に見ても少ないのが現状です。
本研究では、
①RCM(急速圧縮装置:エンジンの一回の圧縮を模擬する装置)を用いた高圧、高希釈条件における実用ガソリンの着火遅れ計測
②赤外吸収分光法によるガソリン燃焼場の中間生成物濃度計測
を実施し、得られたデータを用いて、ガソリン着火に関する詳細化学反応モデルを評価・改良し、エンジンシミュレーションに適用可能な計算負荷の小さな簡略化モデルを開発します。

図1 ガソリンの着火特性把握と簡略化反応モデルの開発
(2)排気熱を利用したガソリン改質による希薄予混合気の燃焼改善
排気として捨てられている熱を利用して、ガソリンから水素を製造し、これを燃料の一部として用いることを試みます。水素はガソリンより燃焼速度が速いため高圧縮比・高希釈化が可能で、さらに廃熱の化学的回収効果により熱効率の向上が期待できます。
本研究では、
①改質成分予測のための化学反応モデルの構築と改質成分予測
②詳細化学反応モデル計算を用いた改質成分による希薄予混合気の燃焼速度改善条件の把握
③最新の単気筒試験エンジン及びエンジンベンチ等の性能評価システムの導入
④改質模擬燃料を用いた実機エンジンの性能評価と熱効率改善効果の検証
を実施して、最終的にオンボード改質器を組み込んだガソリンエンジンシステムを提案します。

図2 排気熱を利用したガソリン改質による希薄予混合気の燃焼改善