理化学研究所、茨城大学工学部青野准教授ら共同研究
―電子回路の「くびれ」に生じる微小な磁化の測定に成功
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームの川村稔専任研究員、量子凝縮相研究チームの河野公俊チームリーダーと茨城大学工学部の青野友祐准教授らの共同研究グループは、これまで測定することができなかった、量子ポイントコンタクトの微小な磁化の測定に世界で初めて成功しました。
量子ポイントコンタクトには、半導体の電子回路に設けられた微細な電子の通り道である「くびれ」が存在します。くびれの幅を狭くしていくに従い電気伝導度は階段状に変化し、電気伝導度がゼロになる直前の最後の段差においては「階段になりかけの構造」が現れます。この構造は「0.7異常」と呼ばれ、なぜこの現象が起こるのか、その原因について過去20年間にわたって論争が続いていました。いくつかの理論モデルでは、量子ポイントコンタクトにおいて電子スピンが揃うことで出現する磁化が、0.7異常に関与していると指摘しています。しかし、量子ポイントコンタクト内部の磁化は小さすぎるため測定できず、この理論モデルを証明することはできませんでした。
共同研究グループは、量子ポイントコンタクトにおいて電子スピンが揃うことによる磁化の変化が0.7異常に関与するのであれば、磁化の変化により量子ポイントコンタクトからの核磁気共鳴(NMR)の共鳴周波数も変化すると考えました。したがって、量子ポイントコンタクトにおける磁化の出現は、共鳴周波数の変化によって調べることが可能です。また、量子ポイントコンタクトを流れる電子スピンと、半導体を構成しNMRを起こす原子核の核スピンは弱く相互作用しています。このため、電気伝導度を測定することによって共鳴周波数の変化が検出できると考えました。
共同研究グループは、このような測定方法の工夫により、従来は不可能とされた、量子ポイントコンタクト内部に生じる電子スピン数個分の小さい磁化を測定することに成功しました。本研究は、量子ポイントコンタクトの0.7異常問題を解決する糸口を与えるとともに、これまで直接測定することが困難だったナノスケール構造の磁気的特性測定への応用が期待できます。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金・若手研究A「抵抗検出型核磁気共鳴によるメソスコピック系のスピン計測」の一環として行われました。成果は、米国の科学雑誌『Physical Review Letters』へ近日中に掲載されます。
*茨城大学工学部青野友祐准教授のコメント*
量子ポイントコンタクトはナノスケールの電子素子の基本構成要素です。
したがって、量子ポイントコンタクトの電気伝導への理解を深めることは、電子ひとつで動くトランジスタやメモリなどの開発につながると考えられます。
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(図1) 量子ポイントコンタクトの概念図 | (図2) 量子ポイントコンタクトの電子顕微鏡写真 | (図3) 量子ポイントコンタクトの電気伝導度と0.7異常 |